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東京地方裁判所 昭和45年(ヨ)2384号 判決 1971年8月16日

申請人

佐藤澄男

右訴訟代理人

中井真一郎

外一名

被申請人

日本電信電話公社

右代表者

米沢滋

右指定代理人

篠原一幸

外七名

主文

一  申請人が被申請人から毎月後記金員の支給を受ける場合には、その支給を受ける都度、それと引換に各支給額の四分の一に相当する金員を供託することを条件として、次のとおり定める。

被申請人は申請人に対し、昭和四五年九月七日から本案判決確定に至るまで毎月二〇日限り金一九、九二〇円ずつ(但し、昭和四五年九月は金一五、九三六円)を仮に支払え。

二  申請費用はこれを四分し、その一を申請人の負担とし、その余を被申請人の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

一  申請人

(一)  申請人が被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

(二)  被申請人は申請人に対し、昭和四五年一月から本案判決確定に至るまで毎月二〇日限り金一九、九二〇円ずつを仮に支払え。

二  被申請人

(一)  本件申請を却下する。

(二)  申請費用は申請人の負担とする。

第二  当事者双方の主張

一  申請の理由

(一)(権利の存在とこれについての争い)

1(1) 申請人は昭和四〇年四月一日被申請人(以下電々公社と略称することもある)に入社してその職員となつた。同四三年一月からは電々公社東京統制電話中継所(以下東中と略称する)第二伝送部第一試験課に勤務し、市外伝送同軸ケーブル保守の職務に従事していた。

(2) 申請人は昭和四四年四月一日以降、機械職二級として、被申請人から毎月二〇日に金三三、二〇〇円の給与の支払を受けていた。

(3) 申請人は、その後刑事々件に関し起訴されたため昭和四四年一一月二〇日被申請人から休職の発令を受けた。電々公社では、刑事々件に関して起訴されたことによる休職(以下起訴休職と略称する)の発令を受けた職員は、本来の給与の六割相当額の支給を受けられることになつている。

(4) したがつて申請人は被申請人の職員であつて、被申請人に対し右休職発令後である昭和四五年一月以降毎月金一九、九二〇円(前記三三、二〇〇円の六割相当額)の給与の支払を求める権利を有する。

2 しかるに被申請人は、昭和四四年一二月二五日以降申請人が被申請人の職員であることを争い、職員として処遇しない。

(二)  (保全の必要性)

申請人は被申請人から受ける給与を唯一の収入としてこれまでその生活を維持して来たものである。貯えはない。なお申請人の家庭は、父親が昭和四〇年一月九日に既に病死しており、母(五六才)兄一人(二七才)、弟二人(二一才と一八才)の五人家族であるが、資産は全くなく、母は包装工、兄は工員として働き一ケ月合計金八〇、〇〇〇円の収入はあるものの、弟らは在学中であり、右収入をもつてしては一家の生計を維持することができないので、一、二年前まで母子年金の交付を受けていた程であつた。申請人は、同四四年一〇月二一日兇器準備集合罪等の被疑事実により現行犯逮捕され、引き続いて勾留されていたところ、同四五年九月七日にようやく保釈されたが、保釈保証金の捻出には大いに苦慮した。通学していた日本大学夜間部も右勾留中の授業料怠納により退学に処せられた。申請人は保釈されて以来生活に困窮するに至つており、本案判決を待つていたのでは著しい損害を被る恐れがある。

二  申請の理由に対する答弁

申請の理由(一)のうち、1の(1)ないし(3)は認める。1の(4)は争う。2は認める。(二)の事実については、申請人がその主張のとおり現行犯逮捕され、勾留され、保釈されたことのみ認め、その余はすべて否認する。

三  抗弁

(一)  被申請人の総裁の委任を受けた関東電気通信局長藤川貞夫は、申請人に日本電信電話公社職員就業規則(以下就業規則と略称する)第五九条七号、一八号および二〇号に該当する所為があり、かつその情極めて重いとして、所定の懲戒手続を経たうえ、昭和四四年一二月二四日日本電信電話公社法(以下公社法と略称する)第三三条一項、就業規則第五九条を適用して、申請人を懲戒処分として免職する旨発令した。その辞令書は郵便で送付されて翌二五日に申請人に到達した。

就業規則第五九条の規定は次のとおりである。

職員は、次の各号の一に該当する場合は、別に定めるところにより、懲戒されることがある。

(中略)

七 職員としての品位を傷つけ、または信用を失うような非行があつたとき

(中略)

一八 第五条の規定に違反したとき

(中略)

二〇 その他著しく不都合な行為があつたとき

右一八号に引用の就業規則第五条の一項には、

「職員は、みだりに欠勤……(中略)……してはならない。」と定められている。

なお、被申請人は申請人に対し、本件懲戒免職処分を発令すると同時に解雇予告手当として金三七、〇〇〇円の支払を準備し、右処分の辞令書送付と同時にその旨を申請人に通知した。

(二)1  昭和四四年一〇月二一日、いわゆる国際反戦デーといわれた当日は、社会、共産両党、総評が中心となつて計画した「安保廃棄、沖繩の即時無条件全面返還、佐藤訪米抗議、国会解散、ベトナム侵略反対統一行動」の集会が行われた。しかしこれとは全く別行動として反代々木系学生ならびに反戦青年委員会の若手労働者らの過激集団は、当日の朝から東京都内の各所で散発的なゲリラ活動を起し、夕方から夜にかけてさらに激しい実力行動に移り、公共建造物や交通機関などを占拠したり損壊するなどし、東京、新宿、高田馬場駅付近を中心として主要街に混乱状態を引き起し、このため東京都内の各所においてこれら過激集団と警備に当つていた警視庁機動隊との間に衝突が起り、同日だけで一、二〇〇名以上の者が現行犯逮捕された。

当日彼らは、警察署や交番を次々に襲い、投石したりあるいは火炎びんを投入したりした。付近の自動車に放火もした。さらにまた、彼らは国鉄の主要駅構内に乱入し、線路上をヘルメット、角棒姿で走りまわり機動隊と衝突を繰り返すなどし、東京都内各地は暴徒の町ともいうべき状態になつた。投石用に割られた敷石や看板で車は各所で立往生し、国電は午後より間引運転を行つたが、山手、中央、京浜東北の各線は午後三時以降運行本数は平常の三分の一にまで減じ、特に山手線は一時完全な麻ひ状態となつた。また西武新宿線をはじめとする私鉄やバスなどの運行も同様に阻害され、東京都民に多大の迷惑を及ぼした。このような状況から当日は休校とした学校も多く、官公庁をはじめ多くの企業が半日あるいは早退とせざるを得ない状態であつた。なお、高田馬場駅付近から新宿駅付近にかけては、もつとも過激行動の目立つた地域であり、中核派系反戦青年委員会が主力部隊として火炎びんの投てき、投石を行い、さらに電車や信号機を壊すなどの暴挙があつた。

そして右の出来事は直ちに新聞、テレビ、ラジオなどで日本全国に報道されたが、前記暴力集団の行動は広く世のひんしゆくを買つた。

2  申請人は当日、江東地区反戦青年委員会のメンバーと行動をともにして過激集団の集団暴力事件に参加し、当日午後六時ころから同六時四〇分ころまでの間、東京都新宿区戸塚町三丁目八六番地所在国鉄山手線、西武新宿線高田馬場駅付近から同区西大久保四丁目一七〇番地所在国鉄戸山アパート西側付近線路上および同アパート敷地周辺に至る間において、多数の者が共同して投石、火炎びん投てき、欧打などにより警備の警察官らの身体、財産に対し危害を加える目的をもつて多数の石塊、火炎びん、角材などを準備して集合移動した際、角材を所持して右集団に加わつた。

3  申請人は当日の行為が兇器準備集合罪等に当るものとして現行犯逮捕され、昭和四四年一一月一二日兇器準備集合罪で起訴された。

前記集団暴力事件で兇器準備集合罪等で逮捕され起訴された者の中に申請人ら電々公社職員もいることは新聞等で広く報道された。<以下略>

理由

一、申請の理由(一)1の(1)ないし(3)および2の事実(入社、給与、休職等)は当事者間に争いがない。

二、そこで懲戒免職処分の抗弁について判断する。

(一)1  抗弁(一)の事実(本件懲戒免職処分の発令等)は当事者間に争いがない。

2  申請人は就業規則第五九条七号の規定が違憲無効であると主張するが、その前提とされている主張を採用できないから、右主張は前提を欠くものとして失当である。

(二)  抗弁(二)(就業規則第五九条七号該当事実の主張)について

1  抗弁(二)の1の事実(昭和四四年一〇月二一日国際反戦デーにおける反代々木系学生、反戦青年委員会の労働者らの集団的行動等)は、<証拠>によつて疎明される。

2  (1)抗弁(二)の2の事実(昭和四四年一〇月二一日の国際反戦デー当日における申請人の行動)については、

イ 申請人が角材を所持していたか否かの点はしばらく措き、その余は<証拠>によつて疎明される。

因みに、<証拠>によれば、申請人が行動をともにしていた江東地区反戦青年委員会のグループを含む集団は、当日午後五時ころ西武新宿線下落合駅に集合し、線路上を歩いて高田馬場駅まで至つたもののように窺える。

ロ <証拠>によると次の事実が疎明される。

(イ) 当日午後六時二〇分ころ、機動隊が、高田馬場駅の新宿駅寄り線路付近にいる学生等の集団を検挙すべく、線路上を新宿方向に進み、国鉄戸山アパート前に至つたところ、突然同アパートの敷地から白ヘルメットをかぶつた約一〇〇名ないし一五〇名くらいの集団が機動隊めがけて激しく投石してきた。

(ロ) そこで機動隊は右集団を検挙すべく、その背後に廻つたところ、これに気付いた右集団の中から機動隊めがけて数本の火炎びんが投げられ、アパート敷地は火の海のようになつた。さらに投石も一斉になされた。右集団の大半の者は角材を所持していたが、その角材で機動隊員に殴りかかつた者もいた。機動隊員が検挙活動に入るや彼らは角材を投げ捨てて逃げた。

(ハ) 機動隊員川畑は、右集団の一員であつた申請人を追跡し、午後六時四五分ごろ国鉄アパート階段上で同人を逮捕したが、申請人は「反戦」と書いたヘルメットをかぶり、タオルで覆面をし、ヘルメットの中にさらに一枚タオルを入れており、軍手をしていたが、これはかなり汚れていた。

右(イ)ないし(ハ)の事実によると、申請人がイ前段で認定した集団に加つていた際、角材を所持していた蓋然性は相当に高い。仮に角材を所持していなかつたとしても、警備の警察官に投げるための石を所持していたことはまず間違いないと思われる。

(2) 右に認定したところが正しいとすれば、当日の申請人の行為は、他人の身体、財産に対し共同して害を加える目的で兇器を準備して集合したもの、即ち兇器準備集合罪を犯したものといわざるを得ない。

3  抗弁(二)の3前段の事実(申請人の現行犯逮捕、起訴)は当事者間に争いがなく、後段の事実(新聞報道)は、<証拠>によつて疎明される。

4  昭和四四年一〇月二一日の国際反戦デー(以下国際反戦デーというときは当日のそれをいう)における反代々木系学生や反戦青年委員会の若手労働者らの前認定の暴力的行動は、その動機や目的が何であつたにせよ、法治国家としては到底許し難い所為であり、反社会性の極めて高度なものといわざるを得ない。彼らの行動を目撃し、あるいは報道機関の報道によつて知つた一般国民が、その反社会的な異常さに驚き、怒り、あきれたことは少くとも東京都では公知の事実であり、<証拠>からもこれを十分に窺うことができる。ところで前認定の申請人の行為は、それ自体反社会性の強い罪に触れるものであるが、前認定したところによれば、前認定の申請人の行為は、反代々木系学生や反戦青年委員会の若手労働者らが国際反戦デーを期して計画的に敢行した集団的過激行動の一環としてなされたものと見ないわけにはいかないのであつて、この観点に立つと申請人の前記行為についての反社会性の評価は加重するのを免れないところである。

当時申請人は被申請人の職員であつた。被申請人は、公衆電気通信事業の合理的かつ能率的な経営の体制を確立し、公衆電気通信設備の整備および拡充を促進し、ならびに電気通信による国民の利便を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的として設立された企業であり(公社法第一条)、その資本金は全額政府が出資している(同法第五条)。被申請人が右のような企業であり、その業務の公共性が高度であるところから、法は被申請人の職員に対し、全力を挙げてその職務の遂行に専念すべきことを命じており(同法第三四条二項)、このようなことは一般私企業では例を見ないところである。その反面被申請人の職員は、一般社会から、右のような公共性の高度な企業に勤務しその職務に専念しているものとしての好ましい評価を与えられている。右のような社会的評価は職員としての信用と言い換えてもよい。また、右のような社会的評価を保持することが職員としての品位だと解して大過ないであろう。

このように考えて来ると、国際反戦デーにおいて申請人が前認定のような反社会性の著しい非違行為を敢てなし、前認定のように報道されたことにより、申請人が被申請人の職員としての品位を傷つけ、信用を失つたものであることはこれを認めないわけにはいかない。

また、申請人を含む被申請人の職員が国際反戦デーの集団過激行動に参加して逮捕され起訴され、それが新聞等で報道されたことが被申請人に対する一般国民の批判を招いたことは、被申請人が一般企業とは異つた前述のような公共企業であることから容易に推認できることであつて、<証拠>にもその一端が窺われる。したがつて申請人の前記非違行為は、現実に被申請人の信用を害したものといわざるを得ない。申請人がその主張するように一介の平職員であつたにせよ、はたまた申請人の前記行為が破廉恥罪とか涜職罪とかではなかつたにせよ、事実は右認定のとおりであつたことを否定できない。

被申請人は、申請人の前記行為により一般の被申請人職員の名誉が傷つけられたと主張するが、その点の疎明は充分でない。

さらに被申請人は、申請人の前記行為は、申請人らに同調する一部被申請人職員の間に秩序軽視の念を誘起させ、被申請人の企業秩序維持の面にも悪影響を及ぼしたと主張するが、右主張前段についての疎明は充分でない。しかし右主張後段はあり得べきことだと考えられる。けだし、被申請人職員の中にも、社会一般から激しい非難を浴びた国際反戦デーにおける集団過激行動に参加した者としての申請人ないしその同調者に対し、非難の目を向ける者が少くなかつたであろうことは容易に推察のできることであり、そのことによつて直接、間接に醸成される職員間の違和は企業秩序維持に影響なしとしないと思われるからである。

5(1)  申請人は、被申請人の懲戒権は職員の企業外の私行には及ばないから、申請人の前記行為は就業規則第五九条七号に該当しない旨主張する。それでこれについて考えてみる。

被申請人の職員に対する懲戒権は被申請人の総裁に与えられている(公社法第三三条)。これは、被申請人が前叙のような企業として公共性の極めて高い業務を営むものであるところから、被申請人がその企業目的を達成するのにマイナスになるような職員の非違を戒めて企業としての秩序を維持するために必要なものとして法が特に総裁に懲戒権を付与したものと解される。この点一般私企業において使用者が従業員に対して有するを通例とする懲戒権とその法的根拠を異にするものがある。そうだとすると、総裁の有する右懲戒権は被申請人の企業秩序を維持するために必要な場合即ち職員の非違によつてそれが現実に害されたか、または害される恐れが生じた場合に限つてその行使が許されるという言わば内在的な制約を受けるものというべきであるが、他方被申請人の業務の高度の公共性ならびにその職員が公社法上右のような総裁の懲戒権のもとにあることのほか前叙のように職務専念義務を課され、さらに罰則の適用に関しては法令により公務に従事する者とみなされること(公社法第三五条、第一八条)等を考慮すると、職員に対する総裁の懲戒権が奉仕すべき企業秩序なるものはこれを作業秩序ないし経営秩序というように狭く解するのは相当でなく、広く被申請人が前叙のような企業として保有する有形、無形の利益(社会的評価としての信用を含む)を保持するための秩序と解するのが相当である。このようなものとしての被申請人の企業秩序は職員の企業外の非違行為によつても害されることがあるが、その場合若しそれが企業外の行為であるとの一事でもつて総裁の懲戒権行使が制限されるものとすると企業秩序の維持は全きを得ないことになり、法が職員に対する懲戒権を総裁に与えた前示の趣旨が貫徹できないことになる。

他方、職員が被申請人に勤務する法律関係は、職員が公社法上前叙のような規制を受けているため多少問題の存するところであるが、私法上の雇用契約関係と解される((したがつてそれは公法上の関係ではないから職員に対する懲戒処分には行政処分に見られるようないわゆる公定力は認められないことになる。)。したがつて職員は、雇用契約上の義務ないしこれに伴う信義則上の義務の履行について欠けるところがない限り、その行動について被申請人からとやかく言われる筋合は毛頭ない。しかし、職員は、被申請人との間の右のような法律関係を継続することを媒介として自己の経済生活を営むほか、好むと好まざるとに拘らず一個の企業体としての被申請人の組織の構成に参加し、社会的、客観的な事実として被申請人に向けられる一般社会の評価としての信用の一端に多かれ少かれ与かるのである。前述の職員としての品位なり信用なりもこのことと密接不可分に関連している。それ故職員は職員である以上被申請人の保有する有形、無形の利益を損わないようにすべき信義則上の義務を負うものといわなければならないが、事の性質上右の義務は職員が企業外に在る場合でも免れることができない。そうである以上、職員が企業外の非違行為によつて企業秩序を害したため懲戒処分を受けることがあつても止むを得ないものといわなければならない。

このように考えると、職員の非違行為が企業外でなされたとの一事によつて総裁の懲戒権行使が制約されることはないといわなければならず、したがつて申請人の前記主張は前提が失当となるから採用できない。

(2)  申請人は、企業外で非行をなした職員に対する懲戒は、作業秩序の観点から該職員を被申請人の職員たらしめておくことが被申請人の存亡にかかわるほど重大な場合に限るべきであるとの前提のもとに申請人の行為は、かかる場合に該らないから、それが就業規則第五九条七号該当の余地はないと主張する。

しかし職員の非行に対する被申請人総裁の懲戒権を右前提のように極端に狭く解すべき合理的な理由は発見できない。右主張も前提が失当であるから採るを得ない。

(3)  当裁判所は、申請人の前記非違行為は就業規則第五九条七号に該当するものであつて、その情は重いものと考える。

(三)  抗弁(四)(就業規則第五九条一八号該当事実の主張)について

1  申請人が昭和四四年一〇月二二日から同年一一月一一日までの間に本来は出勤すべきであつた一六日間出勤しなかつたことは当事者間に争いがない。

2(1)  申請人が右のように出勤しなかつたのは申請人が国際反戦デーに兇器準備集合罪等の嫌疑で現行犯逮捕され、引き続き勾留されていたためであることは当事者間に争いがない。

申請人は、右逮捕勾留は違法なものであつたから右不出勤につき申請人に責はないと主張するが、申請人が国際反戦デーに兇器準備集合罪を犯したと一応認められることは前示認定のとおりであり、申請人の逮捕勾留が違法であつたと認めるに足る疎明資料はない。弁論の全趣旨によれば、申請人は国際反戦デーの前日に、友人の職員溝呂木次男に対し、若し一〇月二二日(国際反戦デーの翌日)に申請人と連絡がとれなかつたら申請人が逮捕されたと思つて申請人に代つて年次有給休暇の申請をしてくれと頼んだことが認められるが、この事実と国際反戦デーでの申請人のとつた前示のような行動とから推せば、申請人は当日逮捕され、引続いて勾留されることのあることは十分予期していたものと考えられる。したがつて申請人の右主張は失当といわざるを得ない。

(2)  申請人が昭和四四年一〇月二二日前記溝呂木を代理人として、その主張のとおり同日から四日間の年次有給休暇の申請をし、また同年同月三〇日、当分の間休暇をとる旨の届をその主張のとおり提出して年次有給休暇の申請をしたことは当当事者間に争いがない。右の事実に<証拠>を総合すると右申請の当日である同月二二日現在で申請人が被申請人から発給を受けていた年次有給休暇のうち現実の給付を受けていなかつた日数は四日であつたと一応認められる。

被申請人は前記休暇申請は所属長の事前の承諾なしに突然なされたものであり正当な業務上の支障があつたので申請人に右有給休暇をいずれも付与しなかつたと主張する。

前記休暇申請が右主張のとおり突然になされたことは申請人が明らかに争わず自白したものとみなされるが、これによれば少くとも右休暇申請のなされた当日即ち昭和四四年一〇月二二日と同月三〇日に関する限り、被申請人が申請人に年次有給休暇を付与するにつき正当な業務上の支障があつたであろうことは容易に推察される。しかし右休暇申請中その翌二三日以降ならびに三一日以降にかかる部分については、申請人に年次有給休暇を付与するにつき被申請人に正当な業務上の支障があつたことの疎明はない。したがつて前記休暇申請により申請人は昭和四四年一〇月二三日、二四日、二五日、三一日(前示乙第六号証の記載によると本来は出勤日)の四日間を年次有給休暇としたものであつて、この四日間は出勤義務を免れたことになる。

(3)  以上認定の事実、前示乙第六号証の記載および弁論の全趣旨によると1で判示の一六日間のうち申請人が出勤すべきであつたのに欠勤した日数は一二日間であること、このうち三日間(昭和四〇年一〇月二七日から二九日まで)については、申請人から被申請人に対し欠勤する旨の意思の表明が全くなかつたことが認められる。

3  以上認定したところによれば、申請人の右認定の一二日間の欠勤は、正当の理由の認め難いものであり、就業規則第五九条一八号、第五条一項に該当するものと認められる。

(四)  進んで再抗弁(一)(起訴休職と懲戒免職の関係についての主張)について

1  申請人が昭和四四年一〇月二一日に兇器準備集合罪を犯したものとして同年一一月一二日東京地方裁判所に起訴され、これによる刑事事件が目下同庁に係属中であること、申請人が同年同月二〇日右のように起訴されたことにより被申請人から休職の発令を受けたことは当事者間に争いがない。

2  申請人は起訴休職中の職員をその起訴にかかる行為を理由として懲戒免職することは同一の事由で職員に二重に不利益を課するものであり、公社法第三二条が起訴休職の期間をその事件が裁判所に係属する間と定めている趣旨に違反し許されないと主張する。

思うに、使用者が雇用中の労働者に就労を継続させるのを不適当とする事情(例えば労働者の病気)が発生したと認める場合であつても、右事情の発生につき労働者に責がないと認められるか若しくは労働者に責があるか否か不明なときや、右事情が一時的なものであつて将来それが解消することを期待する余地があるときは、直ちに労働者を解雇するのを適当としないことがある。一般に、休職は、このような場合に使用者が労働者の解雇を回避するために行う措置であつて、雇用関係そのものは維持しつつ労働者の就労義務を免除するものである。しかしかかる休職は給与の減額をともなうのが通例であり、特に使用者が労働者の就労を不適当と認める事情のいかんによつては、いかに就労義務の免除を受けるとはいつても、休職は労働者にとつて事実上不利益な処分として現われる。したがつて使用者が労働者を休職させることのできる事由について制限を受けたり、労働者を休職としておく期間について制限を受けたりすることになると、それだけ労働者の地位が保障されることになる。

公社法第三二条一項は、被申請人が職員を休職させることのできる事由を限定して職員の地位の保障を図つたものと解される。ところで職員が刑事事件に関して起訴されたときその意に反して休職とされることのあるのは、公社法第三二条一項によつても免れないこと明らかであるが、このような休職は、職員が刑事事件に関して起訴されたこと(これは起訴の対象となつた非違行為とは別の事実である)により該職員に就労を継続させることが不適当であると認めた被申請人が該職員を解雇するのを避けるために行う措置であつて、起訴の対象となつた非違行為の責任を問うものではない。公社法第三一条は職員の解雇を免職と呼び、降職と並べてその発令事由を制限しており、被申請人は職員が刑事事件に関して起訴されたことによつて該職員を免職することはできないが、これは同条の規定がしからしめるのであつて、それによつて前叙の起訴休職の本旨は、若干覆われる嫌いはあつても変ることはない。

他方、公社法第三三条に規定され、総裁が行うこととされている懲戒処分は、職員の非違行為があつたときその責任を問うことを本旨とするものであり、そのうち免職処分はその手段として該職員を被申請人から排除するものであることは言うまでもない。

そうだとすると職員に対する起訴休職処分と、該起訴の対象となつた非違行為による懲戒免職処分とは、処分者、目的、事由、効果すべての点で異るものといわざるを得ない。両者は別のものである。したがつて起訴休職中の職員を該起訴の対象となつた非違行為の故に懲戒免職処分に付することは公社法上毫も妨げのないものであり、それが同一の事由によつて職員に二重の不利益を課するものであるという非難は当たらない。

つぎに、公社法第三二条三項は、起訴休職の発令を受けた職員の休職期間は、その事件が裁判所に係属する間とする旨規定しているが、これは起訴休職者の休職期間は長くてもその事件が裁判所に係属する間を超えることはない趣旨のものと解され、それ以外の意味を含むものとは解し難い。したがつて右条項は、起訴休職中の職員に対して該起訴にかかる行為による懲戒免職処分が許されないことの根拠とはなり得ないものである。

以上のとおりであるから申請人の前記主張は採り得ない。

3  申請人が被申請人の職員をもつて組織されている全国電気通信労働組合の組合員であること、組合と被申請人との間に申請人主張の休職の発令時期等に関する協約と題する労働協約が締結されていること、職員の起訴休職に関して右協約に申請人主張のとおりの条項が存することは当事者間に争いがない。

申請人は、右協約第三条二項の刑事事件に関し起訴された者の休職の期間は、その事件が裁判所に係属する間とする、との定めには起訴休職中の組合員たる職員を該起訴にかかる行為を理由として免職することは一切許さない趣旨を含むものであると主張する。

労働協約は労使関係を規整する自治的法規範であるから、これに含まれる条項の解釈に当つては、協約締結の当事者間で行われている解釈を尊重しなければならない。そこでまずこれを見るに、組合と被申請人との間に前記協約第三条二項につき一致した解釈として申請人主張のような解釈が行われていることについてはこれを認めるに足りる疎明資料がない。申請人の主張の労使慣行についても疎明はない。そこで当裁判所の考えを示さざるを得ないが、当裁判所は、前記協約第三条二項は、その文言から見て、公社法第三二条三項、就業規則第五二条三項(これは公社法の右条項をなぞつたもののように思われる)をなぞつたに過ぎないのではないかと推測する。そうだとすれば、それには前述した公社法第三二条三項の趣旨を超える意味はないことになり、申請人が主張するような趣旨は含まれていないことになる。少くとも前記協約第三条二項を申請人主張のように解するに足りるだけの資料の疎明はない。

右のとおりとすると申請人の前記主張は失当ということになり、それを前提として本件懲戒免職処分を無効とする申請人の主張は失当といわざるを得ないことになる。

(五)  つぎに再抗弁(二)(解雇権濫用の主張)について甲第一号証(成立に争いがない)の記載によれば申請人は被申請人に入社以来一度も病欠、遅刻、早退などをすることなく職務に従事し、昭和四四年四月からは日本大学理工学部二部電気科に入学して勉学にもはげみ、職場においても労働組合の職場委員などをしたりして熱心に活動していたことが認められるが、右認定事実ならびに申請人が平職員に過ぎず、そのなした行為も破廉恥罪というような性質のものではないことを考慮しても、(二)、(三)で認定した申請人の非違行為に照らすと本件懲戒免職処分が著しく妥当性を欠くものとは言い難いから申請人の権利濫用の主張は失当である。

(六)  以上のとおりであるから本件懲戒免職処分は有効と認められ、したがつて申請人主張の権利は、その疎明がないことになる。

三、申請の理由(二)の事実(保全の必要性)は、申請人本人の供述によつて疎明される。右事実によれば、申請人が仮処分を必要としているのは、勾留から保釈された昭和四五年九月七日以降である。なお同日以降同月三〇日までの申請人の休職者としての給与額は日割計算すると金一五、九三六円となることが計算上明らかである。

四、申請人に保証を立てさせて仮処分を許すのが相当か否かについて考察する。

(一)  <証拠>申請人が苦情処理委員会に対し被申請人主張のような苦情解決請求をしたところそれが被申請人主張のような処理がなされたこと(これは被申請人の再抗弁に対する答弁(一)2前段の主張であつて、申請人が明らかには争わないのでこれを自白したものとみなされる)によると、前記休職の発令時期等に関する協約第三条二項の解釈に関し、組合は、申請人が本件で主張すると同様に、同条項は、起訴休職中の組合員たる職員は、該起訴にかかる該職員の行為を理由として免職されることは一切ない趣旨を含むものとしており、これに対し被申請人は、同条項にはそのような趣旨を含まず、起訴休職中の職員を該起訴にかかる非違行為を理由に懲戒を含む免職処分にするかどうかは同条項の運用の問題であるとしていること、この問題が団体交渉事項であることについては両者間に了解があるが、右問題解決のための団体交渉は未だ行われていないことがそれぞれ疎明される。これによると、他日右の問題について団体交渉が行われた場合、組合側の主張が一方的に通るものと考えることは到底できないが、双方が妥協して、例えば企業外での犯罪嫌疑で起訴されたため休職とされた職員が犯行を否認している場合(一般的に言えば、このような場合には、刑事事件の確定判決をまつて懲戒処分をするか否かを決定するのが望ましいわけである。なお就業規則第五九条一六号は刑事事件に関し有罪の確定判決があつたときを懲戒事由としている。)には、その事件が、裁判所に係属している間は該起訴にかかる行為を理由とする懲戒免職処分はできず、前記協約第三条二項はかかる趣旨を含むものである、というような解決に至る可能性が全くないとは言えない。仮にかかる解決に到達したときは、申請人(同人が前記兇器準備集合罪で起訴されている刑事事件で犯行を否認していることは弁論の全趣旨から窺われる)を、前示二、の(二)の2で認定の非違行為を理由として懲戒免職処分とすることは許されないことになる。そして仮にそのようなことになつた場合には、前示二、の(三)で認定の無断欠勤だけで申請人を懲戒免職処分としたのは、著しく当を失し、懲戒権を濫用したものと評価される可能性が生れる。

(二)  当裁判所は、本件懲戒免職処分を有効とし、その結果申請人主張の権利は認め難いと判断したが、これは疎明に基づく一応のものであつて、この点の確定的な判断は本案訴訟にまつべきものであることはいうまでもない。そして本案訴訟の判決確定に至るまではなおかなりの年月を要するものと思われるが、その間に前段で述べたような事態に立ち至らないとは限らない。

(三)  以上の理由から当裁判所は、申請人にその主張の権利についての疎明に代わる保証を立てさせて必要と認める仮処分を許するが相当であると思料する。

五、以上のとおりであつて、申請人の本件仮処分申請は、申請人に右保証を立てさせれば理由があることになるから、主文一項記載内容の仮処分をすることとし(申請人が休職者である本件では、申請人が被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める必要は認め難いのでこれをしないことにする。)、申請費用につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(宮崎富哉 矢崎秀一 飯塚勝)

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